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【設計スキルについて】 ~取締役専務 中山 聡史~
2023年12月01日
2023年も終わりに近づきました。
今年はコロナ禍明けによって、大きく前進した年でもあったかと思います。
そのような中でコロナ禍により多くのことを考えさせられ、コロナ禍で悩み、考えた仕組みやルールなどを活用しながら、
効率も向上させつつ、今までの仕事の仕方を大きく変えることができた年でもあるのではないでしょうか。
そのような中で、企業にとって重要なのがお金や設備などではなく、間違いなく「人」です。
企業が求める人の成長は、コロナがあろうが変わらないハズです。
ゴーイングコンサーンの考え方に基づき、会社を継続していくのであればこの「人」への「教育」は何よりも重要になってきます。
しかし、短期的な目標を実現するあまり、教育への投資が非常に疎かになってしまってきています。
特に設計者への教育は重要ですが、「背中を見て覚えろ」というような教育が中心となってきています。
そのような中で皆さんは設計者としてのスキルをどのように身に付けていっているでしょうか。
上司のしっかりとした教育計画に基づき、徐々に力をつける設計者もいれば、自分自身でスキル習得の目標をかかげて、
セルフマネジメントにより力をつけている設計者もいるでしょう。
私は設計者がスキルを身に付けるための方法として、「勉強」するということも重要だと思いますが、
実践からしか身に付けることができないスキルもあると考えています。
私が実践で身に付けてきたスキルの習得方法、考え方などを説明していきたいと思います。
私がトヨタ自動車に入り、エンジン設計部門に配属された時に最初に上司に出された課題は、「エンジン音」を聞き分けることでした。
配属当初は、はすぐに設計をさせてくれるわけではありません(私の場合のみかもしれませんが)。
どのような課題を出されたかというと、同じエンジンが搭載されている車両が2台あり、それぞれのエンジン音を聞き、
故障している可能性のある部品を抽出するということでした。
他の業務の依頼も上司から受けながら、1ヵ月以内に課題内容に対する報告書を提出しなければなりません。
この課題で身に付けることができたスキルについては後ほど解説していきます。
まずは私がどのように課題の答えを見つけたのかを説明していきます。
①2台のエンジン音をよく聞く
社内にボイスレコーダーのような機器は持ち込めませんので、自分の耳で聞くしかありません。
しかも2台同時にエンジンをかけても、右耳から1台、左耳から1台の音を聞き分けることは難しくできませんでした。
結局、1台ずつ音を聞いていくしかありません。
ボンネットを開けて、エンジン音を聞いていきます。
「ボーボー」という音しか耳に入らず、結局、何も分からず1日が終わってしまいました。
②車内からエンジン音を聞く
これは失敗でした。
静音シートなど防音の対策が取られている車内からエンジン音を聞いても何もわかりませんでした。
③ボンネットを閉めエンジン音を聞く
これも車内と同様にエンジン音の違いがまったく分かりませんでした。
①~③で要した日数は5日です。
全く成果の出ない日が続いていきます。そんな中、試験場に上司が私の様子を見に来ました。
上司「中山くん、どう?何か違いがわかったかな?」
私「先週から課題に取り組んでいますが、全く違いが分かりません。
ボンネットを開けて、車内から、車外からなどさまざまな音を聞いているのですが、何も分からない状態です。」
上司「ははっ!それじゃわからんだろうね。まだ5日間だろう。他の仕事もしてもらっているから課題に割ける時間はすくないだろうが、もう少し頑張ってみようか。」
私「何かヒントをいただけませんか?」
上司「そうだな~。エンジン音はどうやって発生するか、人間が耳にしているエンジン音の正体はなにかを考えれば、答えに近づくと思うよ。頑張ってみてくれ!」
私「ありがとうございます。頑張ります。」
上司からのヒントである「エンジン音の発生のメカニズム」を考えることにしました。
エンジンは機械ですので、機械的な音が発生することがすぐに思いつきます。
しかし、人間が日々耳にしている音はその機械的な音なのかどうかです。その時に思いついたのは排気音です。
例えば、分かりやすく考えるとマフラーがなければ、非常に大きい排気音となります。
ようするに、人間が耳にする音の正体のほとんどは排気音であることに気付きました。
④排気音を聞き分ける
2台の排気音を聞いてみました。その結果、1台は排気音が非常にスムーズで途切れることなく、音が続いています。
しかし、もう1台は先ほどの車と違って、音が途切れ、「ボッボッ」と途中で聞こえます。
「これだっ!」とその時は思いました。しかし、よく考えてみると、音の違いがわかっただけで、何が故障しているのかなんて全く分からない状態です。
ここから苦難の時間が続きます。
エンジンとしての機械の構成については、大学や自分自身で勉強してきたのである程度把握しているつもりでしたが、
音から故障箇所がわかるほどのスキルはありません。
私が考えたのは、排気音がおかしいということは何か燃焼におきているのではないかと考えました。
排気の干渉の可能性もありましたが、まずはエンジンの構成の中で燃焼に関わる部分に焦点を当てました。
そこからエンジンの分解をできる部分まで自分で行い(1人では危険ですので、評価を行う方々に協力いただきながら、エンジンを分解しています)、
各部品を2台分ならべ、1つずつ見比べていきました。
わかったことは、プラグの黒ずみ方が全然異なっていたのです。
私はプラグが故障していると判断し、その分解の内容や音の内容をレポートにまとめ、上司に提出しました。
この時ですでに3週間経過していました。期限は1ヵ月ですので、1週間前に提出できたことになります。
レポートを読んだ上司は早速私を会議室に呼び、レポートの内容についての話することになりました。
上司「中山くんの答えは、プラグということだね。よくここまで頑張って考えた。そこは褒めてあげよう。」
私「ありがとうございます。プラグで間違いないと思います。」
上司「それでは、新しいプラグを渡すからその車両に取り付けて、もう一度音を聞いてごらん。」
私「わかりました。」
早速、プラグを交換し、音を聞きます。
「ボッボッ」と途中で音が途切れます。
おかしい、どうみてもプラグがおかしかったハズ、ですがプラグを交換しても直らない。
先ほど取り付けたプラグを見てみました。そうすると外す前のプラグと同様に黒ずんでいます。
そこで気付きました。燃焼がおかしいのは、プラグ以外の部分で、燃焼が不安定になった結果、未燃焼ガスなどによりプラグが黒ずんでいたのです。
そこから以前分解し、写真に撮っていた他の部品を確認していくと、燃焼噴射を行うインジェクターの部品がおかしいことに気付きました。
燃料を吹く部分の穴が詰まっているのです。
再度レポートを提出し、上司に提出しました。結果、故障している箇所はインジェクターで正解でした。
この課題から学べた内容は、
①エンジンの構成や構造をしっかり理解したこと(勉強したことをモノを通してさらに各部品の機能などを理解)
②問題の箇所を1つに絞るのではなく(すぐにプラグの問題点に飛びつくのではなく)、さまざまな視点から問題を抽出すること
③エンジンの音など機械から発生する情報のメカニズムを考えること
これが私の設計者としての第1歩です。
この①~③は机上で勉強しているだけでは絶対に身に付けることができないスキルです。
これらのスキルを身に付けるためには設計者が評価している現場や市場に出て、製品の使われ方などをしっかりと把握し、
お客様がどう困っているのかを観察することが重要です。
その観察し、問題点を抽出するスキルを1年目から身に付けることができるよう教育、もしくは自分から身に付けていかなければなりません。
設計者の未来は、これらのスキルがあるかどうかによって変わります。
皆さんも現場に出て、製品の声を聞くことから始めてみましょう。
最後になりましたが、本年も1年間ありがとうございました。来る年もさらなるサービス向上を目指し、より一層の努力をしてまいりますので、
変わらぬご厚誼を賜りますよう、よろしくお願いいたします。